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シャクシャインはシベチャリ川下流東岸(現在の新ひだか町静内地区)を拠点としていたアイヌ民族集団メナシクルの首長であった。
 
新ひだか町静内

メナシクルは、シベチャリ川上流西岸のハエ(現在の日高町門別地区)を拠点としていたアイヌ民族集団シュムクルとシブチャリ地方の漁猟権をめぐる争いが続いており、メナシクルの先代首長・カモクタインはシュムクルの首長・オニビシとの抗争で殺害され、メナシクルの副首長であったシャクシャインが首長となる。
 
日高町

1668年4月、今度はシャクシャインがオニビシを殺害。




もともとアイヌ民族は松前城下や津軽・南部方面まで交易舟を出して和人製品である鉄製品・漆器・米・木綿などと、獣皮・鮭・鷹羽・昆布などの交易を比較的自由にしていた。


しかし17世紀以降、幕府により対アイヌ交易権は松前藩が独占することとなり、津軽や南部などの東北諸藩がアイヌ交易に参入できなくなったため、アイヌ民族は対和人交易の相手が松前藩のみとなってしまう。


アイヌ民族は取引相手が限定され、松前藩以外の選択肢がないので、交換レートはアイヌ民族に不利なものへとなり、シャクシャインの戦い前夜の1665年には、従来の「米30kg=干鮭100本」から「米10.5kg=干鮭100本」と変化し、アイヌ民族にとって極めて不利益なものとなった。


レートが不利になったことにより、アイヌ民族はそれまで以上の干鮭、熊皮、鷹羽などの天然資源を確保する必要に迫られ、これがシャクシャインとオニビシの縄張り争いの要因の一つともなる。



現代に例えると、富裕層に富が集中するシステムに目が向かないように、庶民間に勤労者と社会保障受給者を分断させるのと同じように、大くくりな同胞・同族・同階級に対立構造を作る戦略は古い時代から支配層の常套手段であった。



一方で、アイヌが交易に応じなかった場合、子供を人質に取るなどと脅して、不利になった交換レートよりもさらに安値で強引に取引することが横行し、大名の鷹狩用の鷹や砂金を掘るために蝦夷地内陸部を切り開いたり、松前藩船による鮭の大量捕獲が、アイヌ民族の生活を脅かし、アイヌ民族の和人への不満も高まっていく。

松前城

シャクシャインにオニビシを殺されたシュムクルは松前藩に武器の提供を希望するが拒否され、その使者が帰路に疱瘡で死亡してしまい、この死亡が松前藩による毒殺であるという風説が広がると、アイヌ民族の松前藩および和人に対する敵対感情が沸点に達し、対立していたメナシクルとシュムクルが一つにまとまるキッカケとなった。

1シャクシャイン

シャクシャインは蝦夷地全域のアイヌ民族へ松前藩への戦いを呼びかけ、多くのアイヌ民族がそれに呼応し、1669年6月21日、イシカリ(石狩地方)を除く東は釧路のシラヌカ(現在の白糠町)から西は天塩のマシケ(現在の増毛町)周辺において一斉蜂起が発生。



アイヌ一斉蜂起の報を受けた松前藩は、クンヌイ(現在の長万部町国縫)に出陣してシャクシャイン軍に備えると同時に、幕府へ援軍や武器・兵糧の支援を求めた。


幕府は松前藩の求めに応じ、弘前・津軽氏、盛岡・南部氏、秋田・佐竹氏へ出兵準備を命じ、松前藩主・松前矩広の大叔父にあたる旗本の松前泰広を指揮官として派遣する。




シャクシャイン軍は松前を目指し進軍し、7月末にはクンヌイに到達して松前軍との戦闘が始まり、戦闘は8月上旬頃まで続くが、鉄砲主体の松前軍に対して弓矢主体のシャクシャイン軍は劣勢となり、クンヌイからの後退を余儀なくされた。

長万部町国縫

シブチャリに退いたシャクシャインが徹底抗戦の姿勢をみせたため、松前藩は戦いの長期化によって交易が途絶えることなどを危惧して、シャクシャインに和睦を申し出る。


11月16日、シャクシャインがこの和睦に応じてピポク(現在の新冠町)の松前藩陣営に出向くと、和睦の酒宴で謀殺された。

翌17日、シャクシャインの本拠地であるシブチャリが陥落。


指導者を失ったアイヌ軍の勢力は急速に衰え、戦いは終息に向かった。


翌1670年、松前軍はヨイチ(現在の余市郡余市町)に出陣してアイヌ民族から賠償品を取るなど、各地のアイヌ民族から松前藩への恭順の確認をし、戦後処理のための出兵は1672年まで続く。
 
2シャクシャイン

その後、松前藩は蜂起に参加しなかったアイヌ民族に対しても服従を誓わせ、松前藩のアイヌに対する経済的・政治的支配は強化された。


その結果、アイヌ有力首長によって強い自立性をもっていたアイヌ民族の地域統一的な政治結合も解体されていき、松前藩にとってアイヌ民族は交易相手から強制労働者へと変わっていく。



松浦武四郎の『知床日誌』には「女は最早十六七にもなり、夫を持べき時に至ればクナシリ島へ遣られ、諸国より入来る漁者、船方の為に身を自由に取扱はれ、男子は娶る比に成らば遣られて昼夜の別なく責遣はれ、其年盛を百里外の離島にて過す事故、終に生涯無妻にて暮す者多く」と記されている。



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