ヘファイスティオン
アレクサンドロス3世が弱冠20歳でマケドニアの王に即位するとヘファイスティオンは側近護衛官を任される。
ギリシア神話の英雄アキレウスは、親友パトロクロスをトロイヤ戦争で殺したヘクトルを生きたまま馬車で引きまわして全身ズタボロにして殺した。
自身をアキレウスの生まれかわりと信じていたアレクサンドロス3世は、幼い頃から、ヘファイスティオンに「オマエはパトロクロスだ。」と言っては、互いの友情をかみしめあっていた。
東方遠征が開始され、記念に立ち寄ったトロイの遺跡では、アレクサンドロス3世がアキレウスの墓に花冠を捧げ、ヘファイスティオンはパトロクロスの墓に花冠を捧げた。
マケドニア軍は、ペルシア帝国の支配地域であるアナトリア地方(現 トルコ領)に侵入し、「グラニコス川の戦い」をアレクサンドロス3世の鮮やかな活躍で勝利すると、勢いそのまま「イッソスの戦い」ではペルシア帝国の王ダレイオス3世自らが率いる軍勢を粉砕した。
ペルシア帝国の中枢に侵攻したマケドニア軍が、次の目標をペルシアの支配地域であるエジプトに定めると、ヘファイスティオンは征服したフェニキア(現 レバノン)を平定し、マケドニア軍のエジプト侵攻が順調に進むようにと活躍した。
エジプト征服後の紀元前331年、アケメネス朝ペルシア帝国の滅亡が決定的となる「ガウガメラの戦い」では、ヘファイスティオンは騎兵将校の一員として奮戦し、激戦のなかで腕を槍で貫かれる重傷を負う。
マケドニア軍は、広大なペルシア帝国を完全制覇すべく、バクトリア(ヒンドゥークシュ山脈とアムダリヤ川の間に位置)やソグディアナ(現 ウズベキスタン)を平定し、ついにインドを目指すことになる。
インドの先には世界の果てオケアノスがある。
この時代のギリシア人にとって、ギリシア神話は、神話ではなくアイデンティティ溢れる歴史そのものである。
ギリシア神話に登場する世界の果てオケアノスに到達することは、ギリシア世界の盟主となったアキレウスの生まれかわりアレクサンドロス3世の悲願であった。
そして、アレクサンドロス3世の悲願は、パトロクロスの生まれかわりであるヘファイスティオンの悲願でもあった。
ヘファイスティオンはマケドニア軍本隊から先行して別働隊を率い、本隊のインダス川の渡河の準備を整えた。
この後もヘファイスティオンは別働隊を任されては、シンド南部のパタラ砦を制圧するなどの活躍を見せるが、長旅とゲリラ戦に消耗したマケドニア軍兵士達の疲労を訴える声が強くなったため、インドを引き返すことになる。
ゲドロシア砂漠(現 パキスタン・バローチスターン州)を通って、紀元前324年にスーサに帰還すると、アレクサンドロス3世によるギリシアとペルシアの融和政策のもとで、マケドニア兵と現地ペルシア女性との合同結婚式がおこなわれる。
ヘファイスティオンは、アレクサンドロス3世が妃に迎えたスタテイラ2世の妹であるドリュペティス(ダレイオス3世の娘)と結婚した。
ヘファイスティオンは、アレクサンドロス3世が妃に迎えたスタテイラ2世の妹であるドリュペティス(ダレイオス3世の娘)と結婚した。
同時にヘファイスティオンは、アレクサンドロス帝国宰相に相当する地位を与えられた。
アレクサンドロス3世の父ピリッポス2世の頃から使える重臣も多い中で、年若いヘファイスティオンに重い地位を与えるには、しかるべきタイミングを必要としていた。
また、アレクサンドロス3世死後の後継者争いで活躍する幕僚エウメネスや、アレクサンドロス3世の母オリュンピアスの信頼が厚かった将軍クラテロスと、ヘファイスティオンは不仲であった。
ヘファイスティオンは王の親友でありながら孤立した難しい立場だった。
ヘファイスティオンは王の親友でありながら孤立した難しい立場だった。
しかし、それから間もなくヘファイスティオンはエクバタナ(現 イラン・ハマダーン州)で突如病に倒れ病死する。
ヘファイスティオンの死により激しい悲しみに支配されたアレクサンドロス3世は、ヘファイスティオンを診た医師を処刑し、壁を叩き床を蹴り自殺を試みて暴れ、3日間ひきこもって食事も摂らず衣服も着替えなかった。
この時代、身分の高い男にとって、女性はただ美しく性欲を満たし子どもを産めばよい存在であった。
当時の女性は教育機会の少なさゆえに、身分の高い男との知能レベルは大きく違い、さらに征服地で迎えた妻ならば言葉が通じないことも珍しくはなかった。
そのため、王にとって女性は妻でさえ心の友にはなりえなかった。
そして、王にとって、出世を画策してすり寄る部下は、どれだけ任務上の信頼が厚くとも部下以上の存在にはなりえない。
アレクサンドロス3世にとって、心の通わせることの出来る人間はヘファイスティオンただ一人であった。
ヘファイスティオンの死は、人類史に多大な影響を与えるアレクサンドロス3世の偉業の、終わりの始まりとなった。
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