ガウェインの父はオークニーのロット王、母はアーサー王の異父姉モルゴースである。
アーサー王はかつて父と戦った相手ではあるが、王の子であるガウェインは、戦争の敵味方というのはその時々の利害関係が影響することを重々に承知であった。
それよりも、一人前の騎士として徳の高い王に仕えたいという純粋な気持ちから、ブリテンを統一したアーサーのもとに馳せ参じた。
また、ガウェインには朝から正午までは力が3倍になるという不思議な特性があった。
全身を神々しい緑色の衣装に身を包み、その姿は巨体というより巨人ような騎士が、遠い田舎から「円卓の騎士」の武勇を耳にしてキャメロット城を訪れた。
その緑の騎士は噂に名高い「円卓の騎士」がどんなものなのか知りたいと挑発してきた。
そうして、緑の騎士は、手にしていた大きな戦斧を自分の首に振りおろし、一年と一日後に今度は自分に同じことをさせると誓える挑戦者を求めた。
誰も名乗り出ないので、緑の騎士が高笑いと共に侮辱的な言葉を「円卓の騎士」にあびせるので、アーサー王が挑戦しようとすると、それを制するようにガウェインが名乗り出た。
こうして、ガウェインが戦斧を緑の騎士の首に振ると、緑の騎士の頭は胴体から離れる。
ところが、胴体は離れた頭を拾い上げると「一年と一日後に待っている。」と言い残して去って行く。
それからの一年近く、ガウェインは死刑執行を待つ心持ちで苦しい苦しい時間を過ごすことになる。
緑の騎士
約束の日の3日前から、ガウェインは約束の場所まで2時間ほどの距離にある館で過ごす。
親切な館の主人は3日間、ガウェインのために狩りに出た。
一方、館の主人が狩りに出ると、王妃グィネヴィアよりも美しい館の奥方がガウェインを誘惑する。
ガウェインは「親切なご主人を裏切れない。」と奥方のプライドを傷つけないように、礼儀正しく丁寧に断った。
そんなことが3日間繰り返された。
そうして、約束の日にガウェインが緑の騎士に会いに行くと、緑の騎士はガウェインの首に戦斧を振り落とす。
戦斧はガウェインの首をはずして頬をかすめた。
ガウェインが頭を上げると、緑の騎士は館の主人に姿を変え「誘惑と恐怖に打ち勝った君を赦そう。」と言うのであった。
アーサー王が世にも醜い貴婦人に助けられた時に「どんなものでも与える。」と約束すると、世にも醜い貴婦人は「円卓の騎士」から夫が欲しいと答えた。
困り果てたアーサー王が、その事情を「円卓の騎士」に話すと、ひとまず皆でその世にも醜い貴婦人に挨拶に行くことにした。
世にも醜い貴婦人は、片目が潰れ、歯は何本も欠けており、ヒゲが生え、縮れた白髪が不格好に伸び、さらに悪臭も放ち、名をラグネルといった。
「円卓の騎士」は皆、アーサー王に対する高い忠誠心を持っていたが、ラグネルのあまりに醜い容姿に皆、尻込みをした。
誰もがバツ悪く視線を泳がせる中で、ガウェインだけはジッとラグネルを見据えていた。
ガウェインはラグネルの瞳に潜む哀愁と気高さを感じ、深い同情と計り知れない尊敬を抱くのであった。
そして、ガウェインは名乗り出た。
「ラグネルよ。私の妻になって下さるか?」
そうして、数日後に結婚式が予定され、一同はラグネルを連れてキャメロット城に引き返した。
あのガウェインの妻となる女の醜さに城内は大きくザワついた。
ガウェインに憧れる婦女子達からは悲鳴すらもれていた。
結婚式の前日の夜、ガウェインとラグネルが二人きりになると、ラグネルの姿は若く光り輝くほどに美しくなっていた。
ラグネルは
「これが私の本当の姿です。私はあの世にも醜い姿で愛してくれる男性が現れると、昼と夜のどちらかだけ元の姿でいられるのです。選んで下さい。」と言った。
ガウェインは
「では、昼だ。愛する妻が城内で見下されるのは面白くない。私はオマエを愛しているから夜は醜くても構わない。」と返事した。
それに対してラグネルは「あなたは私に愛する夫の前で醜くいろと言うのですか?」と返した。
ガウェインは「では、オマエが好きな方が私の答えだ。」と言った。
するとラグネルは
「それでは昼と夜の両方に致します。私の呪いは愛してくれる男性が現れると昼と夜のどちらか、そして、その男性が騎士らしく私の名誉を守ってくれたら昼も夜も両方、元の姿に戻れるというものでした。」と答えた。
こうして、ラグネルは完全に元の姿に戻るのであった。
しかし、愛する妻を得て前途洋々に思えたガウェインも、王妃グィネヴィアとランスロットの不倫によるキャメロット城の混乱に巻き込まれていくのであった。
キャメロット城にアーサーの息子モルドレッドが現れると、ランスロットと王妃グィネヴィアの不倫関係は白日の下にさらされていった。
モルドレッドの計画で不倫関係の現場をおさえると、ランスロットは逃亡に成功するが、グィネヴィアは捕えられた。
この時に、ランスロットの抵抗にあい、12人の騎士が命を落とした。
その中には、ガウェインの息子ロヴェル、フローレンス、ガングラン、さらにガウェインの弟アグラヴェインが含まれていた。
法に従いグィネヴィアには死刑が宣告され、ガウェインの弟であるガヘリスとガレスは処刑台の警備に着くことになった。
グィネヴィアを処刑から救出に現れたランスロットに、今度はガウェインの弟ガヘリス、ガレスが殺される。
ガウェインにとってランスロットは親友であったが、肉親達を討たれた怒りは凄まじいものとなった。
アーサーはすぐにランスロット討伐に乗り出すが、多くの尊敬を集めるランスロットに味方する者も多く、アーサー軍とランスロット軍の戦いは激しいものとなる。
ガウェインははやる気持ちを抑えきれず、ランスロットに一騎討ちを要求した。
ガウェインとランスロットの実力はややランスロットが上ともいわれていたが、弟を殺された怒りを持つガウェインの勢いはその僅かな差を埋めるものであった。
「円卓の騎士」を代表する二人の戦いは、ふいに近寄れば巻き込まれて命を失いかねない凄まじいものとなる。
ガウェインは朝から正午までは力が3倍になるという不思議な特性があったが、ランスロットはそれを逆手にとり、ガウェインの力が強い時は防御にまわって体力を消耗させ、力の強くない時間に攻撃に転じた。
こうして、ガウェインはランスロットに敗れ、親友の手によってその生涯を終える。